いつかそのときが来るとしても

そう今はまだ――――――…





Countdown until Period





下らない
熱っぽい眼差しと少し媚びるような声色を送ってくる女性クルー
俺のどこを見ているのだろう


莫迦げてる
愛だの恋だのと騒ぐ同僚達
それはそんなに簡単にたやすく口に出来ることなのだろうか


少なくとも俺は違う
口に出したら止められない、焼け付くような衝動
自分自身でその気持ちを意識することすら躊躇われるというのに


だがそんな風に内心のどこかで見下している彼女らにも言い寄られているほうが助かることもある
性欲処理に事欠くことはない
彼女にこれ以上欲情せずに済む
正直、忍耐強い俺でもこれ以上の衝動を抑える自信はない


そもそも彼女は無防備すぎる
ザフトの赤を纏うMSパイロットである彼女は一般女性を遥かに上回る運動神経と反射神経を持ち合わせている
だがそれでも彼女は無防備すぎる
そう、人を疑わないその素直な性格そのものこそが隙だと言えるのだろう


彼女の実力は確かにエリートパイロットとして認められているだけのことはある
並みの男ではとても敵わない実力の持ち主だ
そのことを彼女自身も自覚しているし、自信と誇りを持っている
その地位は血の滲むような努力全ての結晶なのだ当然のことだろう
そしてまたそれに奢ることなく努力を怠ることもない

しかし、MSパイロットとして優秀であることと男よりも強いということは同義ではない
彼女はそのことをわかっていない
その証拠にその気になれば俺は彼女を力ずくで手に入れることだって出来るのだから
彼女のそんな認識の甘さは無防備なその様に更に拍車をかけ俺を刺激する



軍人である故に女であることを遠ざけているように思えるその言動も
むしろ逆に女性特有の健気さと儚さを強調させる結果になっていると感じる
俺は彼女をこの上なく女性らしいと思う
本人にそんなことを言ったのなら間違いなく憤慨するだろうけど
安易に「女」を言い訳にしないその潔さとひたむきさ
美しいと思う


しなやかな美しさと強さ、無邪気さと弱さ
入れ替わり立ち代り、万華鏡のように姿を変えるその姿
その全てが俺の心を満たして、そして掻き乱す


それにしてもここまで自分を臆病だと感じたことはない
彼女に正面から向かい合う勇気がない、そのせいで人の好意を自制のために利用することしか出来ないのだから
我ながら情けない
情けないというよりも哀れだ
自分自身に軽く嘲笑がこみ上げる

下らない上に莫迦げてるのは他の誰でもなく俺の方なのかもしれないな


本当に愛する人は抱けないから他の人間で間に合わす
まるで人形を抱く感覚、熱を持つ生身の人形
俺にとって相手は誰であっても関係ない
誰を抱くときも頭にあるのは眼の前の人間ではなく、抱くことの叶わぬ彼女のことなのだから



相手に対して悪いと思わないわけではない
良心の呵責だって少しはある
ただ、そんなものは一番大切なものの前では無意味なものに変わるだけのこと


長年をかけ築き上げたこの関係
互いの信頼、心地よい距離感、俺に向けられる笑顔
今の俺にはこれ以上大切なものはないし、これ以上失うことを恐れるものもない


俺の想いがもしその全てを壊してしまったらと思うと遣り切れなくなる
だから臆病な俺は今はその想いを堅く閉ざして心の奥底に深く深く沈めておく
彼女に悟られることのないように



いつかこの関係にピリオドを打たねばならない日がくるかもしれない
それでも、今はまだ熱を持つ人形に彼女を重ねるだけの夜を過ごす
いつかくるかもしれないその日に期待と不安を抱きつつ












皆沢タカコ

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